約100年ぶりの著作権法の改正

ミャンマーにも、従来から著作権法が存在していました。英国統治時代に制定されていた1914年著作権法です。

もっとも、これは形式的には効力のあるものとして存続していたものの、現実には実効性がなく、民政移管後に日本政府の支援を受けて著作権法の改正が進められていました。

2019年に新しい著作権法〔2019年連邦議会法第15号〕(以下「新著作権法」といいます。)が制定され、日本法でいう著作隣接権のようなものも含めてあらゆる創作物について権利保護が図られるようになりました。

新著作権法では、権利の保護期間は著作者等の死後50年間と定められており、日本と同様、長期にわたっています。

ミャンマー著作権法の保護対象

新しい著作権法のもと、保護対象として列挙されているのは、次のとおりです(新著作権法13条)。日本の著作権法と比べると、具体的な項目が挙げられている、という特徴があります。

あ)本、パンフレット、詩、小説、記事、コンピュータープログラム及びその他の記述
い)演説、講義、スピーチ、説教及びその他の口述
う)演劇及び演劇音楽著作物、身体的表現を用いた演技、舞踏著作物及びステージ上で上演されるその他の文学的又は美術的著作物
え)曲及び音楽著作物(歌詞の有無を問わない)
お)映像著作物(映画著作物を含む)
か)建築著作物
き)デッサン、スケッチ、絵画、木製彫刻物、鋳造物、彫刻物、色ガラスや宝石等による装飾、木を用いた製作物、ろくろを用いた製作物、金属製品、陶器、装飾品、手工芸品、時代衣装、少数民族の伝統衣装及び身なり
く)石版印刷、織物作品、刺繍作品、その他の美術著作物
け)写真
こ)実用工芸品
さ)織物の模様
し)地理情報、地形表示、建築物、科学技術に関する模型、地図、実施計画、図面、三次元作品

「実用工芸品」とは、手作業又は産業技術により製作された、実用的な、又は実用品に組み合わされる創作工芸品をいいます(新著作権法2条ぬ項)。

日本の著作権法では、実用工芸品が保護されるためには、純粋美術と同視できるほどの美的特性を有している必要があります。つまり、ひとつの芸術としての美術装飾のようなものでなければ保護されないのですが、ミャンマーの新著作権法では、このあたりの解釈が明らかではありません。

ミャンマーの新著作権法は、伝統文化を保護する色が出ている点が特徴的で、例えば、保護の対象として「少数民族の」伝統衣装及び身なりが具体的に挙げられているなどしています。その他一般的な衣類については、他の項目に当てはまれば保護の対象になる、ということかと考えられます。

逆に、保護の対象とならないものとして列挙されているのは、次のとおりです(新著作権法16条参照)。

あ)思想、手続、作業手順、数学的概念、基本原則、発見結果又はデータ
い)単なる報道にすぎない性質を有する時事の記事その他の雑報
う)憲法及び法令
え)規則、規程及び細則、政府機関、政府組織及び各局が発行する命令、通知、指令及び手順書
お)判決及び命令
か)う項からお項までに含まれる事項の政府による公式翻訳及び編纂

なお、第14条には、「文学的又は美術的著作物の表現方法若しくは形状、又はそれらの構成要素、質、及び目的にかかわらず、創作性が含まれていれば、その文学的又は美術的著作物は保護される。」と定められていて、一見、新著作権法第13条との関係がわかりにくくなっています。

新著作権法第2条さ項で、「文学的又は美術的著作物とは、第13条・・・に規定される文学的又は美術的著作物をいう」と定義されていますので、第13条の列挙にあたらないものについては保護の対象とはならない(限定列挙)と考えるのが文言上は自然な解釈だと思われます。

(参考URL)

Pyidaungsu Hluttaw Law No. 15/2019 – Literary And Artistic Copy Right Law (Burmese) – Myanmar Law Library (myanmar-law-library.org)(原文)

copyright_jp.pdf (jica.go.jp)(仮訳)

Myo Thant Swe / Maki Shimoji